名古屋高等裁判所 昭和53年(ネ)134号 判決 1983年11月16日
控訴人(一審原告)
日本ハイウエイ・サービス株式会社
右代表者
林一夫
右訴訟代理人
秦重徳
小名雄一郎
林武雄
被控訴人(一審被告)
安田明雄
右訴訟代理人
郷成文
成瀬欽哉
主文
原判決を取り消す。
被控訴人は控訴人に対し、原判決添付物件目録一及び二記載の各建物を明け渡せ。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、主文同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二枚目表三行目に「東郷売店」とある次に「(旧東郷池売店)」と加え、同三枚目表一三行目に「販売を禁止されている商品」とあるのを「販売指定品目以外の商品」とそれぞれ訂正する。)。
(控訴人の主張)
一 控訴人と被控訴人との法律関係について
控訴人は、訴外財団法人道路施設協会(以下「訴外施設協会」という。)から、本件各建物である守山及び東郷両売店(以下「本件各売店」或いは「守山売店」、「東郷売店」などという。)における商品販売業務の委託を受け、右業務を営む場所として本件各売店を提供され、これを使用しているにすぎないものであつて、本件各売店の賃貸を受けているものではない。
そして、控訴人は、右業務を被控訴人に再委託したものであるから、その法律関係は準委任契約であつて、これに本件各売店の賃貸借契約の要素が加わる余地は全くない。
本件各売店の従業員の雇用・監督については、本件委託契約の内容として被控訴人に委任されたものであり、商品の仕入れ及び販売が被控訴人名義で行われているのは、本件委託契約の実行方法にすぎないから、これらの事実があるからといつて、被控訴人が訴外施設協会や控訴人から独立して売店営業を行う権限を有するものではない。また、保証金一〇〇万円は本件委託契約における固定納付金等の担保の性格を有するものであつて、賃貸借契約における賃貸料の担保とは異なる。そして、被控訴人は、本件委託契約による売店営業の収益の納付として毎月の売上高に応じ一定割合の歩合納付金を支払うと共に、本件委託契約に伴う経費としての固定納付金を支払つていたものであるから、右固定納付金を捉えて本件各売店の使用対価としての賃料とみるのは失当である。
以上のとおりであるから、本件委託契約の終了は、当然に本件各売店の使用を一体として消滅させるものである。
二 被控訴人の債務不履行々為ないし背信行為について
高速道路の売店営業は独占的であり、且つ、円滑な交通確保のために必要な道路サービス施設における営業という観点から公共性を有するものである。しかして、本件売店の存する東名高速道路は昭和四四年五月に全線開通したが、訴外施設協会は、これに伴う利用客の増加に対応して、売店営業の万全を図るため、昭和四五年四月には東名高速道路の売店営業の管理等に当たる上郷事業所を設置し、昭和四六年には「事業所における営業に関する実務要領について」と題する理事長通達を出して、右高速道路の売店に対する巡回点検の詳細を指示した。このような背景の下に、本件各売店に対する指導・監督も強化されるようになつたが、被控訴人は、高速道路における売店営業の公共性と、これに対応するための訴外施設協会の以上のような処置を理解せず、被控訴人の債務不履行に対する控訴人の是正要求をもつて追い出しのためのいやがらせと曲解し、控訴人の指示を受け入れようとはしない。そして、被控訴人は、本件委託契約上の義務に違反する数々の債務不履行を行つて来たほか、前記上郷事業所長が昭和四八年八月一四日守山売店に巡視に赴いた際や、控訴人側の巡回、内部監査等に際し、しばしば脅迫的言辞や暴言を吐いて応待し、或いは暴行に及んだこともあつて、控訴人との間の信頼関係を著しく破壊する態度を取つており、しかも今日に至るまで次のような債務不履行々為を継続している。
1 守山売店の営業時間の不遵守について
本件委託契約の約款等によれば、守山売店の営業時間は八時から二一時までと定められているところ、右営業時間の遵守につき、控訴人は、訴外施設協会より、本訴提起前から今日に至るまで絶えず注意を受け、これを被控訴人に伝えて指示して来た。しかるに、被控訴人は、同売店の営業時間は八時から一九時までであり、これを遵守しているから契約違反の事実はないと強弁し、右指示に従おうとしないのである。
2 本件各売店の従業員不足について
東名高速道路の売店営業では、訴外施設協会からの受託者が、委託された右営業の規模に応じて、自主的に適切と考えられる従業員数を定め、これを同協会に報告することになつているところ、控訴人は、被控訴人の同意を得たうえで、昭和五〇年二月二〇日付書面により、守山売店は上・下とも各六名、東郷売店は上・下とも各二名が適切な従業員数であることを訴外施設協会に報告し、同協会においても、これを妥当であるとして受理しているものである。しかるに、今日でも、守山売店は上・下とも各三名ないし四名、東郷売店は上・下とも各一名ないし二名で営業が行われている。かかる従業員数の不足は、両売店における業務の迅速性の欠如とサービスの低下を生み、また営業時間の不遵守や売店の清掃の不備等の原因ともなつているものである。
3 油分離槽の清掃の不履行について
守山売店の油分離槽は、うどん・そばコーナーより排出される天ぷらの油と水を分離して公共の下水道に流すためのものであるが、焼却場と共に売店の付属設備として設置されているものであるから、被控訴人がその清掃に当たるべきものである。しかるに、被控訴人は、訴外施設協会から右油分離槽の清掃と点検を指示されても、これを行わず、訴訟中であるため、やむをえず控訴人が数十万円の費用をかけてこれを実施した。
4 その他
昭和五一年五月二二日東郷売店での販売商品にゴキブリの卵などが付着していた事件につき、控訴人は、商品購入者の居住地たる静岡まで出向いて陳謝し、更に訴外施設協会、保健所等に対する陳謝や報告のため、多忙な折衝を行つていたにも拘らず、被控訴人は、「いやがらせだ。」などと言つて、保健所からの指示である売店内の清掃さえスムーズに行わせなかつた。
また、守山売店のうどんの丼についても、訴外施設協会はうどんの量目につき一定の基準を定めているので、その量目が十分に入る大きさの器を使う必要があるところ、控訴人は、訴外施設協会から、守山売店のうどんの丼が他の売店のそれと比較して小さく見劣りがする旨、再三にわたつて注意を受け、被控訴人に対しその改善方を指示しているにも拘らず、被控訴人は、これに従おうとはしないものである。
三 本件委託契約の期間満了による終了又は解除について
被控訴人は、上記のとおり、従来より本件委託契約上の義務に違反する数々の債務不履行々為を行つて来たほか、控訴人との間の信頼関係を著しく破壊する言動に及び、果ては今日に至るもなお債務不履行を継続しており、その結果、控訴人と被控訴人との間の信頼関係は全く失われているのであるから、控訴人の本件委託契約の期間満了による終了(更新の拒絶)又は解除の主張は正当である。
仮に、右従前の主張が認められないときは、控訴人は、昭和五四年五月七日の本件口頭弁論期日において、被控訴人の前記信頼関係破壊の言動並びに前記二の1及び2の債務不履行を理由に、本件委託契約を解除する旨の意思表示をした。
また仮に、被控訴人の前記債務不履行々為等が控訴人との信頼関係を完全に破壊するに至つていないと認められるとしても、控訴人は本件委託契約の解除権を放棄していないのであるから、右契約の解除は理由があり(最高裁判所昭和五六年一月一九日判決・民集三五巻一号一頁参照)、控訴人の本訴請求は認容されるべきである。
(被控訴人の主張)
一 控訴人と被控訴人との法律関係について
被控訴人は、本件各売店の従業員を採用し、解雇するなど、訴外施設協会や控訴人から独立して売店営業をなす権限を有していること、入居に際し一〇〇万円を支払つていること、売上との関係で変動する歩合賃料とは別に、建物使用の対価と認められる固定賃料を支払つていることなどからして、本件契約は本件各売店の賃貸借関係がその本質をなすものである。仮にそうでないとしても、本件契約は商品販売業務の準委任と本件各売店の賃貸借との混合契約である。
二 控訴人主張の債務不履行々為等について
被控訴人は、昭和四三年に本件各売店を賃借して以来、誠心誠意をもつてその営業に打ち込んで来たものであり、このことは訴外施設協会もこれを認めて感謝状を与えていることからも明らかである。しかるに、控訴人は、本件各売店の売上が向上するにつれて利益の独占を計りたいとする考えと、訴外施設協会と控訴人との契約関係に即した法律関係を確保したいとの意図から、本件契約を無理に終らせようとして、事実無根、針小棒大の虚偽主張をなし、被控訴人に債務不履行等がある如く主張しているものである。
三 控訴人の本件契約の期間満了による終了又は解除の主張について
被控訴人には、上記のとおり控訴人主張のような債務不履行々為は存在しないのみならず、控訴人から本件契約の終了の主張や本件各売店の明渡を要求されるべき信頼関係の破壊も何ら存しないから、控訴人の本件契約の期間満了(更新拒絶)の主張又は解除の主張は理由がない。
(新たな証拠)<省略>
理由
一請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがなく、訴外施設協会と控訴人との間に成立した商品販売業務委託契約の内容については、原判決理由第一項に認定のとおりであるから、これを引用する。
二そこで、控訴人と被控訴人との間における本件契約の経過、内容及びその性質について検討する。
先ず、右契約の経過及び内容については、原判決理由第二項冒頭に掲記の各証拠に<証拠>を総合するも、同項の1ないし3に認定のとおりであるから、これを引用する。
次に、控訴人と被控訴人との間の本件契約の性質について検討するに、これを控訴人の第一次主張のように雇用契約関係或いは被控訴人の第一次主張のように本件各売店の賃貸借契約関係とするのが相当でないことは、原判決説示のとおりである。さりとて、これを純粋な準委任契約関係とみるのは、控訴人主張の固定納付金の性格が必ずしも明らかではなく(控訴人は本件契約に伴う経費の一種である旨主張するが、経費の内容及び分担については、成立に争いのない甲第二、第三号証の約款に別途定めがあり、また、訴外施設協会と控訴人との間の前記委託契約においては、営業料一本の支払約束となつていることを参酌すべきである。)、本件各売店の使用の対価たる性格を払拭しえないので、この点において疑問がある。従つて、当裁判所も、本件契約は、商品販売業務の委託の準委託契約と本件各売店の賃貸借契約とが結合した一種の混合契約であると解するを相当と考える。
しかし、本件契約の性質を右のように解しても、その実体に照らすと、右賃貸借関係は、あくまで商品販売業務の委託に附随する従たる契約関係以上のものではなく、従つてそれは、主たる契約関係である右準委任契約とその運命を共にするものというべきところ、本件契約の終了事由については、被控訴人の債務不履行を理由とする場合を別とすれば、準委任関係の特別解除(民法六五一条)ないしこれと同様の効果を有する更新拒絶並びにこれに伴う賃貸借関係の更新拒絶となるが、右のうち本件契約の主体たる準委任関係については、本件の場合、委託者たる控訴人のみならず受託者たる被控訴人の利益をも目的とするものであるから、右準委任関係のみに着目しても、これに民法六五一条一項をそのまま適用すべきではなく、同条二項の法意を類推し、原則として、被控訴人に著しき不誠実な言動がある等やむことをえざる事由の存する場合に限り解除ないし更新拒絶を認めるべきであるのみならず、従とはいえ賃貸借関係も存する以上、債務不履行以外の本件契約の終了事由としては、右やむことをえざる事由の存否を中核として、被控訴人につき、本件契約の基礎たる信頼関係を破壊し、本件契約の存続を困難ならしめる特段の事情が存するか否かの見地から、これを決するのが相当である。
三1 ところで、<証拠>によれば、本件契約の期間は、昭和四五年六月一日から昭和四六年三月三一日までとし、期間満了の六か月前までに双方から更新を拒絶する旨の通知がなされないときは、更に一か年継続する旨定められており、右期間は昭和四六年から一年毎に更新されてきたものであることが認められるところ、控訴人が、右約定に基づき、昭和五一年三月三一日の期間満了の六か月以前たる昭和五〇年九月二七日に、被控訴人に対し本件契約を終了せしめる旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。
そこで、以下、右更新拒絶の意思表示につき、前述のような特段の事情が存するか否かについて考察する。
2 <証拠>を総合すると、次の各事実が認められる。
(一) 東名高速道路は昭和四四年五月に全線開通したが、訴外日本道路公団より、高速道路上に設置されているサービスエリア及びパーキングエリア内における各種附帯施設(食堂、売店、給油施設等)の建設及び管理の委託を受けている訴外施設協会は、右全線開通に伴う売店利用客の増加に対応するため、同年八月四日付で同協会支部における休憩所等の巡回、点検等の実務要領を定めた「営業の監督および実務要領」と題する理事長通達を発し、翌昭和四五年四月には東名高速道路における売店営業の管理等に当たる上郷事業所を設置した。次いで、同年五月二〇日付で「休憩所等の営業に関する事業所長の事務分掌について」と題する理事長通達を発したが、翌昭和四六年六月二三日には「事業所における営業に関する実務要領について」と題する理事長通達を発して、右五月二〇日付通達は廃止した。
ところで、右六月二三日付通達によれば、①巡回点検として、「事業所長及び事業所の職員は所掌区域内の食堂、売店等を毎週二回以上巡回し、別記『営業関係点検事項』に定める事項を点検するものとする。」旨定められているほか、②販売商品の調査、③投書箱の管理、④事故又は苦情等の処理、⑤指導等の方法及び措置の確認、⑥報告及び記録の六項目にわたつて実務要領が定められており、更に、昭和五二年三月二九日付の「SA(サービスエリア)、PA(パーキングエリア)における買取調査等の実施要領について」と題する理事長通達によれば、当分の間、四月、七月、一〇月、一月に対象品目を各二個買い取り、計量・試食等を行う旨定められている。
以上のような態勢の下に、訴外施設協会は、その出先機関である上郷事業所を中心にして、東名高速道路における売店を巡回、点検するようになつたので、その管理方法としての指導・監督はいきおい強化されるに至つた。
(二) 右のような情勢の中で、本件各売店に対しても、昭和四七年半ば頃から、訴外施設協会の職員及び控訴人の従業員によつて頻繁に巡回、点検が行われるようになつたが、被控訴人が訴外施設協会又は控訴人から注意を受け或いは改善方を指示された点を取り上げると、次のとおりである。
(1) 商品の量目不足や保証期間経過等
守山売店において販売していたそばが、訴外施設協会の指示によれば一八〇グラム以上あるべきところ、一五〇ないし一六〇グラムしかなかつたことが何度かあり、また、守山・東郷両売店において量目不足のみかんや玉子、或いは保証期間の経過した一、二の商品が販売されていたことがあつたりして、その都度、口頭又は文書により注意を受け、その改善方を指示された。
(2) 清掃の不行届き等
被控訴人は、控訴人から、再三にわたつて、訴外施設協会の職員が巡回の際に発見した右両売店における清掃不行届きや不備の箇所を指摘され、その改善方を指示された。
(3) 営業時間の不遵守
本件契約の約款等によれば、守山売店の営業時間は昭和四三年七月二〇日より八時から二一時まで、東郷売店のそれは当初より九時から二〇時までと定められていたところ、被控訴人は、昭和四七年一二月二五日頃、控訴人に対し、右営業時間を、守山売店につき八時三〇分から一九時三〇分まで、東郷売店につき八時から一九時三〇分までに変更(短縮)されたい旨申し入れたが、訴外施設協会の認可するところとならず、右申入れは結局認められなかつたにも拘らず、被控訴人は、右規定の営業時間を遵守しようとはせず、特に守山売店については、二時間も短縮した時間で営業を継続して来ていたので、訴外施設協会や控訴人から再三注意され、営業時間の遵守方を指示された。
(4) 従業員不足
本件各売店の従業員数については、その定員の定めはないが、ゴールデンウイークや年末・年始等の繁忙期を除く通常期において、本件各売店の営業の規模・内容等に応じ、営業の能率、利用客の便利、清掃の励行等の観点から見て、売店営業に必要な人員と認められる従業員は当然考えられており、これをはりつけ人員と言つて、全線開通当初の頃は、守山売店は上・下とも各四名、東郷売店は上・下とも各二名とされており、その後控訴人が、被控訴人と協議のうえ、その了承を得て訴外施設協会に対し昭和五〇年二月一二日付で報告したところによれば、右はりつけ人員は、守山売店が上・下とも各六名、東郷売店が上・下とも各二名と変更され、更に繁忙期には各売店ともアルバイトを一名ずつ増員することとなつていた。しかしながら、従来、実際には、繁忙期はともかくとして、通常期における従業員数は守られていないことが多く、特に東郷売店では従業員一名のときがあるなど、その従業員不足が目立つたので、被控訴人は、控訴人から、たびたび適切な人員の確保につき改善方を強く指示された。
(5) その他
以上のほか、守山売店における天ぷらうどん用の天ぷらの切り方や器の容量が問題とされたり、従業員の服装の統一に応じないとか、商品の価格表示が不備であるとか、接客態度が悪いことがあつたとかいうことで注意を受けたことがある。そして、被控訴人は、訴外施設協会の職員や控訴人の従業員の巡回等の際、右職員らに対し不隠当な言動に及んだこともあつた。なお、本訴提起後の昭和五一年五月二二日に東郷売店において販売した土産品中に、保証期間経過後のもので、箱の底にごきぶりの卵及び昆虫の死骸が付着していたものがあつて、問題となつたことがあつた。
(三) なお、昭和四七年一一月から同五〇年六月までの被控訴人の納付金の支払状況を見ると、期限どおりに支払われたことはなく、昭和五一年一月には過去六か月の納付金の支払を遅滞していて、催告されて支払つたことがある。また、守山売店の油分離槽は被控訴人が清掃すべきものであるが、これを履行しないため、控訴人において費用を支出して清掃に当たつている。
ちなみに、被控訴人が設立して代表取締役となつている東海ハイウエイ株式会社(旧商号亜都産業貿易株式会社)が、昭和五〇年八月頃守山売店とほど遠くない場所に旅館を建築することを企画したところ、付近住民が風紀上等の理由からその建築に反対し、訴外日本道路公団等へ陳情したので、右公団及び訴外施設協会から右陳情の処理方を依頼された控訴人は、右付近住民と交渉の末、地域における公共的施設のための費用の協力金名下に二〇〇万円を支払い、この件を落着させたので、右東海ハイウエイ株式会社は、右旅館の建築を完成し、その営業を行つているという事情もある。
3 ところで、前掲甲第二、第三号証の約款にもうたわれているとおり、被控訴人は、本件各売店において、約定の営業時間を遵守し、適切と認められる人数の従業員を確保して、適正な品質・量目の商品を販売し、もつて本件契約により受託した営業を誠実に履行すべきものであることは当然であるから、控訴人が、前記認定のような2の(一)ないし(四)の諸点につき、被控訴人に対し注意を与え、その改善方を要求したのは、これまた至極当然というべく、このことを捉えて、被控訴人主張のように、控訴人との間の本件契約関係を終了させようとする意図から出た不当な処置であるとは到底認められない。
なるほど、<証拠>によれば、控訴人は、昭和四八年三月頃から、被控訴人との本件契約を終了させたいと考え出していたことは認められる。しかしながら、控訴人をして右のような考えを抱かせるようにしたそもそもの発端は、むしろ被控訴人の営業態度にこそ問題があつたものといわざるをえない。即ち、<証拠>を総合すると、被控訴人は、本件営業の委託を受けた際の経緯と、開業当初の頃は赤字を抱えながらも営業を維持して来た努力、即ち、被控訴人は、昭和四六年頃までは、右営業に関して、控訴人や訴外施設協会或いは利用客との間において格別の紛議や問題を生じさせたようなこともなく、却つて、訴外施設協会から、昭和四四年六月二八日には東名高速道路における移動売店の排除等に尽力したことで表彰状を受け、また、同年一〇月一日には売店の清掃・整頓に努め、清潔な環境を保持してきたものとして感謝状を受けたこともあるという過去の実績とに囚われる余り、訴外施設協会が、東名高速道路の全線開通による売店利用客の増加に伴い、利用者に対するサービスの向上に心掛けると共に保健衛生面においても万全を期し、高速道路における模範的な営業を行おうとして、次第に指導・監督を強化してきた同協会の経営方針を理解しえず、これに適切に対応しようとしないで旧態依然とした感覚と態度でもつて対処して来たところに、大きな原因があると認められる。
しかし、訴外施設協会の経営方針には格別不都合視される点は認められないのであるから、過去の努力や実績はともかくとして、被控訴人が営業を継続して行こうとする以上は、同協会の経営方針に従い、本件契約上の義務を誠実に履行すべきは当然であつて、これが被控訴人にとつて酷であると認むべき事情は何ら見受けられないのである。
4 そこで、控訴人の前示のような改善要求に対して、被控訴人が具体的にどのように対処して来たものであるかを検討するに、<証拠>によれば、次のようなことが認められる。
(一) 守山売店で販売するそばについては、これを納品していた訴外アイシン食品株式会社が、被控訴人に納入する一八〇グラム入りのもの以外は、すべて一袋一六〇グラム入りのものとして製造しており、従つて、守山売店において販売していたそばに量目不足のものがあつたとすれば、右訴外会社の製造、納品の過程において被控訴人に納入すべきものに他のものが混入したことによるものと認められるところ、被控訴人としても、右訴外会社に対し、再三にわたつてこのようなことが生じないように注意を促してきたものであることが認められる。また、その他の商品の量目不足や保証期間経過等の問題についても、その都度改善していたものであることは窺われる。
(二) 被控訴人は、前記のように、売店の清掃・整頓等に関して感謝状を受けたこともあり、その後も、本件各売店の清掃等に心掛けて来たことは窺われないではない。
(三) しかし、本件各売店の従業員数については、多忙な時には臨時にアルバイトを雇つていたほか、被控訴人の妻と子一名が常時その営業に従事していた(その総数は、昭和五六年頃からは、アルバイトを除き二〇名を下らないようになつた。)が、多くの従業員は午後五時以降は帰宅してしまい、その後は、被控訴人、その妻及び四名の子が適宜右営業に当たることが多かつたので、いきおい売店の閉店時間を繰り上げるようになつていた。
5 以上のように対処して来たことは認められるのであるが、被控訴人は、本件各売店、特に守山売店の営業時間の遵守については、<証拠>によつても明らかな如く、頑としてこれに応じようとせず、規定の営業時間より二時間も短い八時から一九時までで営業を打ち切つていたものであり、また、従業員の適切人数の確保についても、上来判示したように、本件契約の趣旨に添つてこれが履行されて来たとは認められず、それがため売店の閉店時間を切り上げるなどの支障が生じていたものである(<証拠>によれば、被控訴人は、開業から約二年間は赤字経営であり、家族総出でようやく営業を継続して来たのであるが、昭和四六年頃からは黒字経営に転じ、その営業利益は増加の一途を辿り、相当の収益をあげて来たことが認められるのであるから、従業員の確保が困難であつたとは到底認められない。)。
6 しかるところ、高速道路における売店の営業時間と従業員の確保は、単に売上の向上という目的のみではなく、道路利用者の利便に配慮しつつ、適切な道路管理を図るという総合的・公共的な観点から定められているのであるから、売店における営業時間の遵守と適切な人数の従業員の配置は、営業の基本態勢として、被控訴人がとりわけ遵守すべき本件契約上の根本的義務であることはいうまでもない。しかるに、被控訴人は、前記更新拒絶の申入れを受ける以前から長期間にわたり、何らの合理的理由もないのに右義務を履行することなく徒過して来ており、しかもその点について反省、改善に努めるどころか、上記のように専ら自己の立場と考えを主張し、不隠当な言動にも走るという状態であるから、被控訴人の態度はもはや著しく不誠実なものといわざるをえず、従つて被控訴人の営業当初の業績や本件売店を失うことによる打撃を考慮に入れても、なお被控訴人の所為は、本件契約における当事者間の信頼関係を破壊し、同契約の継続を困難ならしめるものと評価されてもやむをえないところである。
従つて、被控訴人には、本件契約の更新を拒絶されてもやむをえない特段の事情が存するものというべきである。
四以上のとおりであるから、控訴人の本件更新拒絶の意思表示は有効であるので、本件契約は、昭和五一年三月末日(右更新拒絶の意思表示から六か月の経過)をもつて、期間満了により終了したものである。
そうすると、被控訴人に対し本件各建物の明渡を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきであるから、控訴人の右請求を棄却した原判決を失当として取り消し、控訴人の本訴請求を認容すべく、なお仮執行の宣言は相当でないから付さないこととし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(小谷卓男 寺本栄一 笹本淳子)